先日、地下にある理髪店に行った。
地下というのは油断ならないもので、降りてみたら案の定、スマホの電波が圏外。LINEも見れなければ、ネットの波にも繋がらない。
最初は「マジか」と思ったのだけど、せっかくだからこれはデジタルデトックスのチャンスだと考えることにした。
普段なら数秒でも隙間時間があればスマホを触ってしまう。通知の確認、SNSのチェック、ニュースの流し読み。まるで現代の僕らは情報という海にいないと呼吸ができない魚みたいではないか。
しかし、ここでは電波がない。選択肢がない。強制デトックスの開始だ。
待ち時間は体感で1時間ほどあったと思う。スマホのない1時間は、普段の3時間くらいに感じられるから不思議だ。周囲を見渡すと、雑誌棚にはいくつかの漫画が置かれていた。どうやら店のオーナーは古谷実のファンらしく『ヒミズ』も『グリーンヒル』も『僕といっしょ』もあったが、代表作『稲中卓球部』だけがなかった。なんとなく理由を理解して待合室で笑いを堪えていた。
そうして電波から切り離された僕は、雑誌をパラパラめくったり、店の内装を眺めたり、薄ぼんやりと瞑想してみたりして過ごした。普段なら無駄な時間と思いそうな空白に、案外いろんな発見が転がっていたのだ。
思えば僕らは、インターネットで繋がった世界に身を置くのが当たり前になりすぎている。しかし、スマホの画面を閉じてみると、世界は静かに、確かにただそこに在り続けている。
正直に言えば、情報の洪水の中を泳ぐ力を身につけなければ、生きづらい時代にいると思う。知人との付き合いも、社会的な立ち回りも、その多くが情報端末を介しているのだから。それでも、デジタル魚類な僕らもたまには海から上がり岸辺で深呼吸を試してみる事にも大きな価値があると感じた一日だった。