以前、吉祥寺のネットカフェ「ポパイ」の閉店について記事を書いた。
この記事を書いたのはもう随分前だ。
時間の流れは恐ろしいもので、気が付けば5年経っている。
本日、久しぶりに吉祥寺を歩いていた。
サンロードを歩いていると、ふと視界の端に見覚えのある看板が映った。
「ネットカフェ」
一瞬だけ足が止まる。まさか。
そう思いながら視線を向けると、確かにそこにはネットカフェの案内が出ていた。
ポパイがあったビルである。
あの閉店したポパイの。
少し驚きながら階段へ向かう。
階段は何も変わっていなかった。
何度も上り下りしたあの階段だ。

一段一段上りながら、少し不思議な気持ちになる。
あの頃の自分は、この階段を上ればポパイがあることを知っていた。
だが今は違う、ポパイはない。
もう何年も前に閉店した。
それなのに。
階段の先には再びネットカフェがあった。
「快活CLUBサンロード店」
入り口に辿り着いた瞬間、妙な高揚感があった。
別にポパイが復活したわけではない。
経営会社も違うし、店名も違う。
中に入ればレイアウトも設備も全く別物だった。
かつてのポパイを知っている人間からすると、全く別の店と言っていい。
それでも、またここにネットカフェがある。
その事実だけで少し嬉しかった。

人間というのは案外場所に愛着を持つ生き物なのかもしれない。
ポパイは消えた。
けれど場所は残った。
そして新しい店がそこへ入った。
今日、僕はその店のオープン席で漫画を読み、ドリンクを飲み、1時間を過ごした。
昔のように会社を休んで駆け込んだわけではない。
今はもう吉祥寺方面へ通勤していない。
だからあの頃のような逃げ場として利用する機会はおそらくないだろう。
それでも同じ場所で、同じように何もせず時間を過ごしていると、少しだけ感慨深いものがあった。
街というのは変わる。
店は潰れるし、建物も取り壊される。
当たり前のことだ。
だからこそ、かつて何かがあった場所に新しい何かが生まれる瞬間は少し嬉しい。
失われたものを惜しむ気持ちは今もある。
ポパイのような凄まじい格安の料金体系では無かったが、それでもここはこのご時世にオープン席が3時間710円の設定だった。物価が何もかも上がった今、あの頃のポパイのエッセンスを受け継いでいると感じた。
これは単なるテナントの入れ替わりだ。
けれど僕には少し違って見えた。
消えたと思っていた場所に、再び人が集まり、再び時間が流れ始めている。
街が呼吸を続けている証拠のように見えた。
ポパイが消えた時、この場所の物語は終わったのだと思っていた。
どうやら違ったらしい。
物語は終わるのではなく、次世代へ受け継がれていく。
あの日の駆け込み寺はなくなった。
だが今日、新しい店の個室で漫画を読みながら思った。
再生というのは、きっとこういう形をしているのだ。
そしてここはまた誰かの駆け込み寺になるのかもしれない。
この場所に灯った新しい看板は、僕には、そう。
再生の灯火のように見えたのである。